平成28年5月 海徳寺 寺報

観心本尊抄

心の中のほとけ

天晴れぬれば地明らかなり 法華を識る者は世法を得べきか 日蓮聖人御遺文「観心本尊抄」

空が晴れれば、地面が明るくなります。逆に空が曇れば、地面もまた暗くなってしまいます。人も同様に、明るい人と話していると、聞いているこちら側も自然と明るい心持ちとなります。

四月十四日と十六日に震度七の地震が発生した熊本県では、現在でも活発な地震活動が続いております。熊本の象徴である熊本城では瓦や石垣が崩れ落ち、築城当初から現存する櫓も倒壊する等の映像が連日のニュースで報道されております。これらの被害状況からも、今回の地震がかつてない規模のものであることを如実に物語っております。

熊本城を築城したのが加藤清正であることは有名な話です。清正はまた熱心な日蓮宗の信者であることも広く知られており、熊本には日蓮宗の寺院が数多く存在します。今回の地震では、熊本県内の日蓮宗寺院にも甚大な被害をもたらしました。熊本の友人から送られてきた写真を見ますと、本堂内の仏像・仏具、境内の墓石・石塔などが、原型を留めず崩れ落ち、壊滅的な状況でした。

今回ご紹介した御遺文は、地震の被害にあったその友人との会話を通じて連想した日蓮聖人のお言葉です。「何か支援をしたいが、どのようなものが必要?」と電話で聞いたところ、「水や食べ物など様々なものが足りてはいないけれど、こうやって気にかけてくれる、その思いだけでも十分有り難いし、勇気づけられる」との返事でした。連日の余震で大変な状況にも関わらず、友人のこの言葉を聞いて逆に自分自身が励まされました。そして、被災地の為に自身でできることは僅かではあっても、心の中にあるその思いを大切にしつつ、今後も継続して支援していくことが必要であることを痛感いたしました。

今回の地震でお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りするとともに、地震の早期収斂、さらには被災地の復興を心よりお祈り申し上げます。

(海徳寺住職・加藤智章)