平成30年8月 海徳寺 寺報

平成30年8月報恩道語

地震・雷・火事・大山嵐

自然界に起こる様々な異変は、自然の運行、自然それ自体の活動とはせず、人間界の動向と深く関わると考えるのが依正不二論。

「人の悦び多々なれば、天に吉瑞をあらわし、地に帝釈の動きあり」と示される。人の平安多幸は、吉祥の瑞が天にみちるし、地も帝釈の快い活動を招いて安穏豊楽で五穀がうるおうというのである。その逆が掲出文。悪心さかんで人の迷惑つのれば、不吉な天変・不祥な地夭が競起し充満すると。

人間堕落の根本は三毒。人間破壊の害毒三つの煩悩が貧(とん)・瞋(じん)・痴(ち)。災害は自然界の怒りで人間界の怒りの反動。心身の平安を乱しさとりを妨げる根本悪瞋恚。集団瞋恚の反動は当然に大きく、大害をもたらせる。

出典:日蓮宗新聞社発行『今月の聖語』

日蓮聖人が身延山で過ごされた日々を記した御遺文『身延山御書類聚』をこのところの朝勤で拝読しております。その御遺文に散見されるのが、身延山を取り巻く自然環境の厳しさです。

その中に、先月発生した西日本豪雨を連想させるような文章があります。それは、「南は波木井河、北は早河、東は富士河、西は深山なれば、長雨大雨時々日々につづく間、山さけて谷をうづみ、石ながれて道をふせぐ」という一節です。

近年では、堤防等の治水対策が施され、自然災害の被害は大幅に減少いたしました。しかし、その結果、時には猛威を振るう自然に対する畏敬の念が薄らいでいる気がいたします。先の豪雨でも避難指示が出ていたにも関わらず、「自分は大丈夫」という油断があり、避難が遅れたという被災者の方の声がありました。

かつては怖いものといえば、「地震・雷・火事・親父」でした。一説には、最後の「親父」は台風を意味する「大山嵐」がいつの間にか差し替えられだそうです。今回の豪雨により、自然の猛威を改めて感じるとともに、異例のルートを辿って本州へと今まさに向かっている台風十二号の被害が何事も無いことをただただ祈るばかりです。

(海徳寺住職・加藤智章)

平成30年8月 海徳寺 寺報