ものの見方
『是日尼御書』は、佐渡の是日尼に対してで、夫が身延の日蓮聖人の下に給仕に上がったことへの礼状。
身延に入られた聖人はこの時期体調を大きく崩しつつも弟子信徒に対し精力的に教化活動をされていました。しかし一方ではご自身の死期も脳裏をかすめておられたのかも知れません。
出典:日蓮宗ポータルサイト『今月の聖語』 2021年7月号
あの世、すなわち霊山浄土においても弟子信徒との変わらぬ契りを結んでおられたのです。
先月よりNHKカルチャースクール『法華経に学ぶ』という講座を受講するようになりました。普段の法話では、難解な仏教用語を極力避けるように努めています。しかし、僧侶になってから二十年以上経過し、気づかないうちに専門的な言葉を発していることもあります。そういったことから、一般の方を対象とした講座を受講してみたいと思ったことがきっかけです。
初めての講義で登場したのが第五十五代内閣総理大臣・石橋湛山さん。体調不良の為、在職六十五日で辞職しますが、父親は身延山久遠寺第八十一世・杉田日布法主で、日蓮主義による政治を目指した方です。
総理大臣になる前の昭和十九年にこんなエピソードがあります。当時、東洋経済新報社の社長だった石橋湛山さんは、三大新聞の社長を集め、次のような提案をします。それは、会社の財産を全て処分し、従業員にできる限りの退職金を渡し、残ったお金で三大新聞に全面広告を打つと。内容は、
「くだらない戦争すぐやめろ。文責・石橋湛山」。
新聞社の社長が怖気づいてしまい、この広告が掲載することはありませんでしたが、何故このような広告を考えたかといえば、
「今、日蓮聖人がおられたらどうするかを考え、私はそうした」と。
また、石橋湛山さんと似たような行動をした方に、東芝やIHIの会長であった土光敏夫さんの母親・土光登美さんのエピソードも登場しました。登美さんは、戦争に突入している我が国を憂い、日本の将来を良くする為には、正しい考え方をする女性を育てることが大切だと考え、法華経の教えを柱とする橘学苑という女学校を創立します。
「あの世で日蓮聖人とお会いした時に、おまえは戦争を止めるために何かしたのかときっと問われるだろう」。
「今、日蓮聖人がおられたらどう考えるか?」。今回の講義を受講し、とても大切な問題意識を教えていただきました。
海徳寺住職:加藤智章