令和6年9月 海徳寺 寺報

大社旋風

「自分の我がままは当たり前、他人の我がままは許せない。いや、むしろ自分はいつも我慢している」と思いがちなのが私たちの常かも知れません。そんな姿を鏡に映した時、どのように見えるでしょうか。
こんな捨てがたい「我」を持った者同士、一息ついて相手を拝む気持ちで「我」を認め合ったなら、調和と発展の「大我」が生まれるのではないでしょうか。 

出典:日蓮宗ポータルサイト『今月の聖語』 2017年1月号

今年の夏の甲子園をご覧になりましたか。幾多の名勝負が繰り広げられた今夏の大会で一番話題となったのは、島根県代表の大社高校の活躍ではないでしょうか。いわゆる大社旋風です。

実はこの大社高校は私の妻の母校です。大社高校は毎年のように県大会のベスト4には残るのですが、いつも準決勝・決勝で私立の強豪校に敗れていました。私立の高校が全国各地から優秀な選手が集まるのとは異なり、皆が地元の島根県出身。あと一歩という状況が三十数年続いていました。

そんな中での甲子園出場だったので、妻はどうしても母校の応援に甲子園に行きたいと。お盆前の忙しい中でしたが、お盆は来年もくるけど、母校の甲子園は来年もあるかどうかはわからないと思い、甲子園に妻を送り出しました。

初戦は春センバツ準優勝の報徳学園にまさかの勝利。続いての2回戦も延長戦を制し長崎の創成館を撃破。さらに早稲田実業との一戦は、ここ数年で一番ではないかというくらいの白熱した試合でした。もう駄目かなと思った最終回に同点に追いつき、再びタイブレイクを迎えます。早稲田実業が異例の内野五人シフトなどでサヨナラのピンチを防ぐ等、その攻防の一球一球が手に汗握る展開となり、最後は大社高校がサヨナラ勝ちを収めました。

残念ながら準々決勝にて敗れましたが、甲子園での試合を重ねるたびに注目されたのが大社高校の応援です。島根県民が全員甲子園に駆けつけたのではと揶揄されるほど、スクールカラーの紫で埋め尽くされたアルプス席は満員。チャンステーマの「サウスポー」が流れると球場全体を巻き込み、テレビからもその応援の凄まじさがわかるほどでした。

大社高校の選手は強豪校と比べて個々が際立っているわけではないですが、制球力抜群の投手、堅実な守備、積極的な盗塁、そしてここぞという時のバントなど、各選手が個々の役割を十分に認識し、一つのチームとしての組織力が極めて優れていました。さらに地元を愛する大社の人々の応援。その応援が神風となって選手を後押しし、今回の快進撃につながったはずです。

「百人千人なれども一つ心なれば必ず事を成す」という日蓮聖人の言葉の意味を噛みしめた大社旋風でした。

海徳寺住職:加藤智章

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