尊敬と羨望
世界や社会で活躍する人たちは、その努力や人柄、結果に対して多くの人から尊敬の心を抱かれます。しかし、ときとして私たちはその副次的に得る富を成功や尊敬の証と短絡的に考え、そこだけを真似することも多いです。つまり高価なものを所有するなどして、尊敬と似て非なる羨望を受けたいという欲求を起こすのです。実は羨望は妬みとも解されます。
身近で尊敬される人とは、困っていたら助けてくれたり、的確な助言をくれたり、いつでも親身になってくれる人です。あなたにそういった尊敬できる人がいるならば、それはあなたがそこに至りたいと思っているからです。あなたはあなたのままで尊敬する人を鑑としながら人生を歩んで行けば、意識せずあなたがまた人から尊敬される存在となります。羨望されたいは捨てて、尊敬されるような生き方は周りをも幸せにします。
出典:日蓮宗ポータルサイト『今月の聖語』 2023年3月号
今月六月一日からの半年間、本山本土寺において『日蓮宗布教研修所』が開設されます。この研修所は時代に沿った布教方法を学び実践する場です。海徳寺の施餓鬼会にもここ数年研修生に法話をお願いしておりましたので、若い僧侶の姿を思い出される方もおられるでしょう。そして今年は当山の山田上人が、当該研修所の副主任先生としてその指導にあたります。
さらに今月の上旬には、私自身が講師として研修生に話をする機会を頂戴いたしました。現在何を話そうか思案しておりますが、大学時代の指導教授から教わった次の二点を伝えたいと考えています。
第一が、『独創性を大事にしなさい』という点です。京都大学は多くのノーベル賞受賞者を輩出し、その背景には「自由な学風」という土壌があります。教授は人の模倣をするのではなく、人と違った研究をしなさいということを常に口にしていました。その為にはまず過去の先行研究を徹底的に調べ、どんなことが研究されているかを把握しなさいと。「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という孫子の兵法と共通する考えです。
第二が、『タイトルを大事にしなさい』という点です。どんな研究なのかは、論文のタイトルに集約されると。そのタイトルに自身が研究したことが過不足なく表現されているかと口酸っぱく仰っていました。
そんな教授の教えを思い出しているうちに、日蓮聖人の教えと共通した点があることにふと気が付きました。岩本實相寺にて一切経(お釈迦様が説かれた全てのお経)を閲覧した後に、法華経こそがお釈迦様の最高の真理であると確信された点は、日蓮聖人の独創的な考えです。また、「南無妙法蓮華経」というお題目は、まさに妙法蓮華経というお経のタイトルが大事だということに他なりません。
教授が亡くなってから早三年。日蓮聖人の教えと恩師の助言には相通じるものがあったことに初めて気が付きました。
海徳寺住職:加藤智章